個人業務の自動化は先送りにされてきた
RPA(Robotic Process Automation)の市場が急成長している。市場拡大の背景にあるのは、働き方改革だ。社会環境と労働環境の変化のなかで、企業の生産性を維持・向上していくための手段が強く求められるようになっているのだ。
RPAでは、これまで人が行ってきた業務の中で、単純作業や人的ミスが起こりやすい作業をロボットが代替する。RPAによる業務の自動化は人件費の圧縮によって大きなリターンが見込めるため、企業にとって極めて重要だ。コスト削減だけでなく、労働時間短縮による働き方改革にもつながるだろう。そのため、IT部門が中心となって、近年積極的に進められてきた。
一方で、個人単位での業務の効率化や自動化は先送りにされてきた感がある。たとえば、Windows95が発売されてから20年以上が経ち、ExcelなどのOfficeソフトはバージョンアップされている。しかし、Excelの入力やメールの送受信といった基本的な作業のやり方は変わっていない。
ただ、個人単位での業務のIT化には大きな壁が立ちはだかる。IT部門に依頼して予算化するためには、投資対効果を明らかにする必要があるからだ。しかも、数百万円~数千万円という高額な費用と時間が必要になることが多い。そのため、現場はIT化をあきらめ、個人単位でExcelなどの標準ソフトを駆使、工夫してきた。
これまでIT投資がなされてこなかった個人業務の効率化や自動化は、働き方改革の波に乗り遅れていると言ってもいいだろう。
「RPAは、高くて難しい」というイメージが変わる
例えば、Excelで入力・管理しているデータをシステムに転記する。これは必要な作業だが、とても非効率である。このプロセスにRPAを導入すると、人の作業から転記という非効率な要素が取り除かれ、転記する際の入力ミスも防止される。
その結果、人はより生産性の高い業務に注力できるようになるのだ。ただ、RPAの利用料は1ライセンスあたり年間数十万円以上かかるものが多い。そのため、一日数分でも個人の業務を効率化できれば効果は非常に大きいにもかかわらず、導入効果の算出が難しい個人の業務では、これまでRPA導入の判断はしにくかった。
そうしたなか、いま注目されているのが、ユーザー自身が手軽に開発できるRPAの導入だ。こういうと、「個人でRPAの管理ができるのか」「本当にユーザー自身が開発できるのか」という疑問を持つかもしれない。
例えば、あたり前に誰もが活用しているメールも、かつては個人が管理するのは危険だとみなされていた時代があった。しかし、いまは違う。また最近のRPAは開発が非常に簡単になっている。プログラミングの知識を持たない人でも開発可能だ。
RPAも、個人が開発し個人で管理する時代がやってくるのだ。
SCSKの「CELF(セルフ)」は、予実管理表や各種申請などを簡単にアプリ作成できるツールである。操作方法はExcelとほぼ同じで、既存のExcelファイルの取り込みも可能だ。データはクラウド上のデータベースに置かれるため、複数の人が同時にアクセスできる。
これまで点在していたExcelのデータを一元管理することで、情報を共有し、有効活用が可能となる。セキュリティ面でも、機密性の高いファイルを各個人で管理するより、クラウド上で一元管理する方が安全だろう。「個人情報や機密情報の含まれたExcelファイルをメール添付で誤送信してしまう」「重要なファイルを個人のミスで壊してしまう」といったセキュリティリスクを低減できるからだ。
CELFに自動化の機能を追加したのが「CELF RPA」だ。CELF RPAによるアプリの開発や自動化の設定は、ビジュアルプログラミングで非常に簡単である。積み木感覚でブロックを組み立てるように、自分専用のロボットを開発できる。
ユーザーが自らの業務を自動化できれば、外部のベンダーや社内のIT部門などにわざわざ依頼する必要もない。自分が作ったRPAアプリなら修正作業も容易だ。しかも、開発や運用のコストも発生しない。
すでに大手スーパーマーケットチェーンや飲料メーカーなど、製造業、流通業、金融機関での導入も進んでいる。経理部門において、銀行のサイトで為替レートを読み込み、別のファイルに数値を入力するといった作業を自動化している企業もある。
ある会計事務所では、年末調整の電子申告のため、これまで人が行っていた給与計算用ソフトから電子申告用ソフトへの転記作業を自動化した。CELF RPAが自動でデータを転記し続けている間、スタッフは別の業務に時間を当てることが可能になった。人手不足が続く中、作業時間を大幅に短縮させたのだ。
最低限のIT知識でユーザー自らがRPAを開発する「RPAは一人一台の時代」がすぐそこまで来ているのである。