最新のIT動向を入手するために経営トップ自ら展示会へ
精密な自動車部品や産業用ロボット用部品を手掛ける水島機工は、生産ラインに自動化ロボットを導入するなど先進技術を取り入れるとともに、業務効率化のためのIT化にも積極的に取り組んでいる。
これは、取締役社長である滝澤昌朗氏の「IT活用で企業は飛躍的に生産性が変わる」という信念によるもので、2020年には経済産業省「地域未来牽引企業」に選定されたほか、「岡山県自動車関連企業ネットワーク会議」の幹事企業にも名を連ね、滝澤氏はIT導入に関する相談窓口としても活動している。
「地方においてはITの展示会が開催されることも稀で、情報収集もままならない」と話す滝澤氏は、新しい技術やソリューションを自らの目で確認するために、東京で開催される展示会に頻繁に足を運んでいる。2019年にも、解決すべき大きな課題はなかったものの、最新動向を入手するために展示会を訪れた。一つの目当ては、当時話題になっていたRPA(Robotic Process Automation)の情報を得ることだった。
いくつかのRPAツールを見学し説明を聞いたが、多くのツールは滝澤氏には難しすぎると映った。導入するにはユーザーにある程度のスキルが求められ、専門的な教育を受けなければ、使いこなせそうにないと感じるものが多かったのだ。
そうした中で、たまたま出会ったのが、SCSKのノーコード/ローコード開発ツール「CELF(セルフ)」だった。CELFはマクロや高度なプログラミング知識は一切不要、Excel感覚で簡単にWebアプリが開発でき、オプションでRPA機能も備えているツールだ。
初めてCELFに触れた滝澤氏は、「設定画面のインターフェースがグラフィカルで、直感的なので、とても分かりやすく、これならだれもが使えそうだ」と感じたという。さらに、他のRPA製品に比べてはるかに低価格だったことも魅力的だった。この価格なら、たとえ導入がうまくいかなくても大きな痛手にならない。「試しに導入してみよう」と、軽い気持ちで導入を決断する。
ノーコード/ローコード開発ツールで、多様なシステムを内製化
展示会にも同行し、試用版を入手して検討した総務部情報管理グループ マネージャーの梶房厚彦氏は、当時リプレイスを進めていた新しい基幹システムに受注データを自動的に取り込むことや、周辺システムとの連携にCELFが使えるかを検討した。
「RPAの機能というよりは、CELF本来の持ち味であるノーコード/ローコードでExcelライクのアプリを簡単に開発できる点を評価しました」と梶房氏はいう。
現在同社では、基幹システムへの受注データの取り込み、基幹システムでの売上明細一括修正処理、基幹システムとさまざまな周辺システムの連携など、ミッションクリティカルな業務にCELFを活用している。
例えば、基幹システムへの受注データの取り込みに関しては、従来、EDIシステム、インターネットのWebサイト、メール添付などで送られてくる受注データを、多くの人手をかけて基幹システムへ入力していた。しかし、CELFを使うことで、現在では取り込み処理、データのマッピング、印刷処理などすべてが自動で行えるようになった。これにより毎日4時間程度かかっていたものが2時間以下に短縮できた。このほか、生産管理システムと会計システムを連携させる中で、生産管理システムのデータを自動仕分けして会計システムに取り込む作業もCELFで自動化している。
基幹システムまわりの効率化をCELFで実現した水島機工では現在、生産管理、品質管理、工作、技術、総務経理といった業務の効率化に取り組んでいる。関連する各部門から上がってくる「Excelを使っている業務をCELFで効率化したい」という要望を受けてアプリを開発しているのが、総務部情報管理グループ主任の藤川圭一郎氏だ。藤川氏は、操作が簡単だからこそ、数多くの要望に応えられているのだと話す。
「ExcelでVBAのプログラミング経験はありましたが、CELFはそれよりもはるかに簡単にアプリを作ることができます。各部門の担当者が自らアプリを開発できるようになるのも、そう遠くないはずです」(藤川氏)
また総務部情報管理グループの青井 柾氏は、まだ配属されたばかりだが、CELFのRPA機能による自動化の威力を実感しているという。
「これまで複数の操作が必要だった処理も、CELFを活用した自動化で、ボタンを1つ、2つクリックするだけで作業が終了します。現場の社員も驚いていて、『こんなことはできないか』と次々と提案されるようになっています」
地域企業のDXを促すため、CELF導入の成果やノウハウを提供
現在、さまざまな社内システムがオンプレ/クラウドで稼働している水島機工。それらを連携させていくことが業務効率・生産性の向上を図っていくうえで重要だという。
「そのときに、自社でやるのか、外注に頼むかでスピードもコストも大きく違ってきます。そういう意味で、RPA機能を備えたノーコード/ローコードで簡単に開発できるCELFの必要性は大きいと思います」と滝澤氏は語る。
自社におけるCELF活用を進める水島機工では、一方で地域の他の企業へ外販を行うために、SCSKと販売代理店契約を結んだ。同社はこれまでも本業のかたわらITベンダーと代理店契約を結び、ソリューションの外販をしていた経験がある。そこには滝澤氏の地域のDXを推進したいという想いがある。
「地域の企業は、ITの最新情報が少ないこともあって、DXや業務効率化にあまり関心のない企業や、何から着手すればよいか分からないという企業もまだまだ多いのが実情です。そうした企業に、当社が蓄積したノウハウを提供し、地域全体の活性化につなげたいのです」(滝澤氏)
水島機工は、モノづくりに自動化を組み入れ、今回CELFで業務システムの内製化にも取り組んできた。長きにわたりモノづくりを実践している企業だからこそ、地域の製造業に対して説得力のある提案ができるというわけだ。
梶房氏も、「地域で導入してくれた企業と、こういう使い方をしているといった情報交換のネットワークができるようになればいいですね」と展望する。
ノーコード/ローコード開発やRPAを使ったシステム内製化のノウハウを持つ企業が、周辺の企業にそれを伝授し、地域全体のIT活用のレベルアップを図っていく。水島機工は、まさに地域の未来を牽引している企業だと言えそうだ。