セールスマーケティングのアウトソーシングは有効か
インターネットの普及により、営業プロセスや顧客ニーズが複雑化している。そこで、多くの企業が導入を進めているのがMA(Marketing Automation)である。メールの開封やサイトへの来訪など、見込み顧客の行動をトラッキングし、一元管理するためだ。
だがMAを導入しても、その機能を十分活用できていないケースも多い。MAツールの使い方はマスターできても、どのようにMAを運用すれば、顧客獲得や顧客育成につながるかという知見が業界や企業によって異なるからだ。
「IT」と「業務」を組み合わせたBPOサービスを事業として、MAの運用やインサイドセールスなどのアウトソーシングで実績を重ねるSCSKサービスウェアには、近年その知見を求めた相談がよくあるという。
「MAのツールベンダーは、ツールの機能はサポートできても、業界や企業に応じたマーケティングのノウハウは持っていません。結局、成果をあげる上で重要なのは、どのようにMAを運用するかなのです。メール1つを送るにしても、最初から適切な時間帯、タイトル、文面構成などがわかるわけではありません」(SCSKサービスウェア株式会社 デジタルサービス推進部 マーケティングサービス課 北山 武志)
また、収集した顧客情報を、営業パーソンが活用できるデータにする必要もある。
「どのようなデータを営業が求めているか、まずはそこを詰めなくてはなりません。その上で、データをクレンジングし、さまざまな項目、セグメントごとにデータを整理します」(北山)
次に、営業パーソンがスコアに基づいて、より確度の高い顧客にアプローチする。
「スコアが○点以上になったお客さまをアラートで知らせたり、一週間ごとにスコアの高いお客様のリストを連携したりすることで、より商談化率の高いお客さま情報を営業パーソンと共有できるのです」(北山)
顧客のスコアの重み付けには、「大きく3つの軸がある」(北山)。1つはどのページにアクセスしたかといった顧客の行動履歴。第2は業種や年商、所在地などの企業情報。第3に役職データだ。決裁権を持っている人か、持っていない一般社員なのかによってもスコアの重み付けが変わってくるという。
MAを導入したが、効果的な運用ができないケースもあるだろう。こうした企業の課題を解決するのが、SCSKサービスウェアが提供する「セールスマーケティングBPO」である。
「あるお客さまから、MAで収集したリードを活用して、セールスの電話を入れて欲しいと依頼されたのがきっかけでした。その際、MAとインサイドセールスは一体で運用されるべきだと考えて、電話とWebの2軸でリードを育てていくお手伝いをさせていただきました。このときのノウハウをソリューション化したのがセールスマーケティングBPOです」(北山)
つまり、MAから商談・受注する確度の高い顧客リストを選出し、そのリストに対しインサイドセールスを行ってBANT情報(「Budget:予算」「Authority:決裁権」「Need:必要性」「Timeframe:導入時期」)をヒアリングでつかむ。そうしてブラッシュアップしていった顧客リストを用いてアプローチすれば、効率的に商談化でき、受注に結びつけられるわけだ。
優れた営業パーソンの行動をトレースすれば、全体の底上げにつながる
どれだけ精度の高い顧客リストでも、営業パーソンがうまく活用できなければ、業績を向上させるのは難しい。そこで必要になるのが、営業活動の精度向上である。
企業には効率的に成果を上げる優秀な営業パーソンもいれば、なかなか成果が上がらない営業パーソンもいる。こうした優れた営業パーソンの活動をトレースすることで営業部隊全体のパフォーマンスを底上げするソリューションがある。それが、売上を効率的に創るメンバーを育成するマネジメントシステム「Retool(リツール)」である。
Retoolセールス&コンサルティンググループ リツールセールスユニット マネージャーの田中利樹氏は「成果を上げる営業パーソンと成果の上がらない営業パーソンの差が非常に大きいお客さまが増えている」と話す。上位2~3人で全売上の7割をつくり、残りの3割を残りの人たちがつくるというケースも珍しくないという。
なぜ、それほどの差があるのか。
「要因はいろいろありますが、売上は一般に量×質で構成されます。成果を上げる営業パーソン、いわゆるハイパフォーマーの行動を分析すると、お客さまと接する時間などコア業務にかける時間量が多い。一方で、売上につながらない業務、いわゆるノンコア業務にかける時間が少なくなっています。つまり削れるところを削ることで、高いレベルでの量×質を担保しているのです」(田中氏)
Retoolを使った改善活動は、社員のPCに常駐アプリをインストールし、行動を可視化することから始まる。ここで重要になるのが、タスクのルール付けである。常駐アプリが収集するのはMicrosoft ExcelやPower Point、Zoomなどのアプリケーションの起動時間と終了時間のログに加え、ExcelやPower Pointであればファイル名、Zoomであればその会議名など。
ファイル名の中の「ご提案商談」「社内ミーティング」といった文言の1つひとつを、ルール付けによりコアタスクやノンコアタスクに分類していく。「こうした方法を採用することで、どのタスクにどのくらい時間を使っているかを把握できる」と田中氏は語る。
この結果に基づいて、ハイパフォーマーの日々の行動を可視化し、その行動を他の営業パーソンにトレースさせる。こうすることで、組織全体の営業活動における質と時間(量)の最適化が可能になるわけだ。
Retoolは「ステークホルダーの最適化にも活用できる」と田中氏は説明する。ここでいうステークホルダーとは、顧客や商材を指す。成果が出ている顧客(もしくは商材)の進捗情報を抽出し、顧客(もしくは商材)の属性情報と実績データをパターン分析して相性をスコアリングするわけだ。
このようにRetoolを活用すると過去の実績データから成果創出の確率が高い顧客・商材とパターンを見つけられ、そこに活動リソースを集中投下すれば、組織として効率的に受注できるようになる。これがRetoolによるステークホルダーの最適化である。
セールスマーケティングBPO とRetoolが組んだ理由
さまざまな業界や業種でBPOサービスを提供してきたSCSKサービスウェアには、MAの運用ノウハウと知見がある。
「MA運用にあたっては、受注に至ったお客さまのスコアリング変化を見ています。その上で、受注に至ったお客さまがどのような行動を取っていたのかという傾向を分析することで、スコアの重み付けを調整します。このようなスコアリング調整により、勝ちパターンを定義するのです」(北山)
重み付けを調整したスコアから選出された商談・受注確度の高い顧客リストに対する営業活動を、Retoolで可視化することで、「より高い効果が生まれる」と田中氏。Retoolにより営業スキルが底上げされた組織であれば、優れた顧客リストを生かし切れるからだ。
「反対にいくら営業スキルが高くても、顧客リストの精度が低ければ成果には結びつきません。両者が高い精度であることが重要なのです」(北山)
セールスマーケティングBPOとRetoolを連携することで、マーケティングから営業までの活動を一体的に可視化し改善することができる。営業の生産性を向上させ、効率的に売上という成果につなげられるのだ。
また、ノンコアタスクに時間が取られて、成果が上げられていない組織は営業以外にもある。ただ企業としては、セールスマーケティング活動などのアウトソース費用がどのくらい売上に貢献するのか、その費用対効果を投資前に把握したいはずだ。業務をコアタスクとノンコアタスクに分類するRetoolは、それを把握するためのツールとしても有効活用できると、田中氏は言う。
「Retoolは費用対効果を可視化できるツールです。つまり、どの業務にどのくらい時間がかかっているのかという人件費に換算できるのです。そうしたデータに基づいて、セールスマーケティング活動におけるコア業務とノンコア業務がそれぞれ、売上にどのように貢献しているかを把握できますし、ノンコア業務をアウトソースした際の効果も見える化できます」(田中氏)
SCSKサービスウェアも、業務を問わないプロセスマイニングツールとしての活用に期待している。
「たとえば製造領域であれば、アクティビティーベースコスティング(活動基準原価計算)におけるコストシミュレーションのレポーティングに使える可能性があるのではないでしょうか」(北山)
とはいえ、常駐アプリが営業パーソンのPCにインストールされるため、企業による個人の行動監視として、ネガティブに捉えられる可能性もある。だがそれについても、田中氏はこう話す。
「Retoolは時間の使い方を最適化するので、働きやすさにもつながるでしょう。また監視ツールではないため、ルール付けしたタスクしか取得しません。プライベートも守られるのです」(田中氏)
さまざまな業務を見える化し、業務改善や生産性向上、アウトソースの効果を定量化するRetool。高度化なBPOサービスの提供により、顧客のビジネスに貢献するSCSKサービスウェア。
アウトソーシングサービスと営業の可視化ツールの組み合わせは、セールスマーケティング領域のDX化を成功に導く定石となりそうだ。
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