中堅・中小企業が多い食品製造業が抱える課題とは
2022年9月30日に公表された「令和3年経済センサス‐活動調査 産業別集計(製造業・概要版)」によると、食品製造業の製造品出荷額は29兆6,058億円と輸送用機器器具製造業(60兆1,781億円)についで2位。従業員数は産業中分類の中で最も多く109万4454人となっている。
一方で、中堅・中小企業が多く、システム投資が難しい食品製造業は、労働生産性の向上が特に求められている。では、食品製造業は具体的にどのような業務課題を抱えているのだろう。
第一に、手作業や表計算ソフトによる管理が多いこと。各種伝票や送り状が紙フォーマットで、手書きも珍しくない。例えば北海道地区では、伝票や送り状に紙フォーマットを採用する食品製造業は「肌感覚では約9割」と、食品製造業に精通し、業務アプリケーションに特化した高付加価値サービスを提供するSCSK北海道 営業部の石川 善裕は話す。
北海道地区では「クラウドサービスもようやく普及してきた状況」(石川)で、表計算ソフトを多用する企業も多い。販売や在庫はシステムで処理しているが、生産管理に表計算ソフトを使い、帳票や集計にあたっての転記や入庫/出庫の差引についても表計算ソフトで行うことも多いという。
こうした状況では業務の標準化や効率化は難しい。業務の進め方が属人的になり、マニュアル化も難しいからだ。
第二に、販売管理と在庫管理のシステムが連携しておらず、二度手間や人手による確認作業が発生するケースも少なくないことがあげられる。
「電話やFAX、メールなどでお客さまからオーダーを受け、その情報をシステムに入力するのですが、販売システムと在庫システムが連携されていないため、別々に入力しなければなりません」(石川)
連携されていないのは販売システムと在庫システムだけではない。多くの企業で、販売・在庫システムとERPも連携されていない。そのため、会計業務においても二度手間が発生している。
「販売・在庫システムとERPが連携されていないために、売上や在庫のデータを経理担当者が再入力する必要があります。決算時期には、経理担当者の業務負荷が非常に高くなる企業も珍しくありません」(SCSK北海道株式会社 サービスインテグレーション部 磯貝 安洋)
第三に、販売状況や受注状況などから将来的な売上や在庫を予測できないことである。食品製造業には、原材料、仕掛品、商品という3種類の在庫があり、在庫管理が複雑で管理が難しい。そのため、欠品や納期遅れ、あるいは過剰在庫を招きがちで、そもそも計画が立てにくい。
このように、手作業で販売・在庫を管理していること、システムが連携されていないことは、非効率な業務や人為的ミスを引き起こすだけでなく、計画の立案、ひいてはデータドリブン経営を阻害しているのだ。
食品製造業の課題を解決する、販売・在庫・生産管理システムとERPの組み合わせ
このような食品製造業が抱えるさまざまな課題を解決し、データドリブン経営を実現するのが、SCSK北海道が提供する「TABECLA(タベクラ)」とSCSKが提供するERP「ProActive(プロアクティブ)」である。
TABECLAは中堅・中小の食品製造業向け販売・在庫・生産管理一体型クラウドサービスで、メーカー、小売双方の業務をカバーし、製配販のサプライチェーンを効率化する。食品業界に特化したパッケージはいくつかあるが、それらはオンプレミスでの利用が主流だ。伝票や売上情報、原価などをどのように見たいかなど、ユーザーごとに要望が異なるため、カスタマイズが必要になるからだ。
一方、TABECLAはクラウドサービスでありながらも顧客ごとにサーバ環境が独立しているため、顧客ニーズに合わせたカスタマイズができる。これが、TABECLAの強みとなっている。
「食品製造業と一口に言っても、各社の業務のやり方はそれぞれ異なり、しばしばそうした固有の業務フロー自体がその会社の強みとなっています。そのため、お客さまからは『今の業務のやり方を変えたくない』という要望をいただくことが多いので、現在のような形で提供することにしました」(石川)
カスタマイズを求められることが多い業界向けのシステムにもかかわらず、TABECLAをクラウドサービスとして提供するのには理由がある。中小企業では専門のIT技術者がいないケースが多いからだ。
「自社でサーバを立てても、それを運用するスタッフがいないのです。クラウドサービスなら、安心して運用保守をベンダーに任せられます。また初期導入コストを抑えられるのも、お客さまにとってのメリットです」(石川)
一方、会計や人事給与、資産管理などの業務領域をカバーするのは、同じSCSKグループが提供するERP「ProActive」である。ProActiveは国産初のERPパッケージで、国内の中堅企業を中心に6,500社、300企業グループに導入されている。このProActiveとTABECLAは相性が良く、組み合わせた利用も推奨される。
ではなぜ、食品製造業においてカスタマイズが必要になる販売・在庫・生産管理領域はTABECLAの機能を利用し、財務会計・債権・債務といった会計領域はProActiveを利用するのだろう。
まず、TABECLAの財務会計仕訳などに必要な売掛・買掛データをProActiveに連携すると、会計領域の管理帳票においてProActiveの標準機能を活用できるようになる。これにより、支払いの消し込みや支払い処理、滞留債権や債務などの管理が容易になり、経理業務の効率化が可能になる。
またTABECLAとProActiveを連携すれば、ユーザー、権限、マスタの管理機能を共有できる。
「勘定科目も各システムで登録する必要がなくなります。マスタの二重登録がなくなるので、会計業務の効率化を実現できるのです」(SCSK株式会社 ProActive事業本部 営業部 川本 康彦)
さらに、仕入・売上データが効率的に蓄積されると、納品先や商品、営業担当者ごとなど、さまざまな軸で売上を容易に確認できるようになる。
生産管理と財務会計のシステム連携は何をもたらすのか
TABECLAの導入により、成果を上げている食品製造業がある。導入以前、食品製造・販売・卸・飲食を手がけるA社では、FAXやメール、電話などによる注文を販売管理システムに手入力し、販売管理や生産管理、在庫管理のシステム間は連携されていなかった。業務の効率化、リアルタイムでの在庫把握を可能にしたいと考えたA社では、既存の販売管理システムの老朽化に伴い、TABECLAの導入を決定したという。
「TABECLA導入の決め手は、TABECLAがA社の求める機能を網羅していること、業務に合わせてカスタマイズできること、そして当社が地場のベンダーだったことだったようです」(石川)
「弊社では、お客さまの業務をこと細かくヒアリングし、他社事例を踏まえて改善点やシステムの提案を行います。そのすり合わせ作業の丁寧さで信頼を得ているといっても過言ではありません」(磯貝)
A社ではすでに導入していた財務会計システムとTABECLAを連携したことで、経理担当者は再入力する必要がなくなり、会計業務も大幅に効率化されたという。さらに、TABECLAの支払・売上データも財務会計システムに反映されるようになった。
こうした連携効果は、TABECLAとProActiveの連携によっても見込める。
「滞留債務や債権の見落としがなくなります。これらは現場サイドの負担軽減につながるだけでなく、経営側にも効果をもたらします。例えばProActiveには管理会計の機能があるので、経営管理のための情報を帳票として出力できます。また財務会計で取得したデータを、TABECLAにバンドルされたBIツールで分析できるのです」(川本)
勘定科目や組織などのProActiveのマスタ情報がTABECLAのマスタデータに反映されると、システムごとのマスタの二重登録も必要がなくなるため、システム運用面でも大きな成果をもたらす。
「ProActive C4はクラウドサービスとして提供されています。TABECLAもクラウドサービスなので、システム運用の負荷は大幅に軽減されます。また、いずれもSCSKグループが提供するソリューションであり、システムの一体運用が可能です」(川本)
両者がクラウドサービスとして提供されているため、法改正への対応も万全になることもメリットだ。
TABECLAではProActive C4との連携を機に、機能拡張を図っている。
例えば在庫のロケーション管理・ピッキング計画・検品機能の追加もその一つ。「大きな倉庫を管理するお客さまからの要望に応えた機能」と磯貝は明かす。在庫のロケーション管理機能を使えば、単純な在庫管理だけではなく、どの棚に何が何個入っているという細かな管理ができるなど、より緻密な在庫・出荷管理が可能になる。また検品機能を使えば、バーコードの読み込みにより、正しく商品が入庫したかを自動で検品してくれる。そして生産計画の作成・管理機能も拡充される。
「これまで提供していた生産管理の機能は生産実績に主眼を置いていました。拡充後は、計画の立案、実行をより容易かつ適正に行えるなど、予実管理が可能になります」(磯貝)
TABECLAでは、ロットトレースにより、原材料の製造時期や使用時期(商品製造時期)、そして生産された商品の出荷時期や出荷先のトレースが可能になる。ロットトレースは商品の品質管理には欠かせない機能だ。これにより食品製造業特有の賞味期限や不定貫(個体ごとに重量や形状が異なる商品)の管理も可能である。賞味期限はロットトレース機能で管理し、不定貫については商品ごとに管理の単位を設定できるからだ。
また、TABECLAは人時生産性(従業員1人が1時間働く際の生産性)管理機能も開発し、ProActiveの勤怠管理システムと連携することを視野に入れている。人時生産性は製造業で改善指標として活用されることが増えており、その活用はデータドリブン経営にもつながるだろう。
「日々の売上で何がどれだけ売れたかがわかり、次の日にどれだけ商品が必要なのか、自動で予測できるようになります」(石川)
食品製造業は独自の業務も多い。現在の連携パターンは1つだが、今後は連携パターンの拡張も予定している。
食品製造業にとってより使いやすいシステムへ。TABECLAとProActive C4の連携に向けた取り組みは続く。