AIの活用は自社の課題を正しく把握することから
−昨今のAIブームについてどのように見ていますか?
ようやくAIが現実社会で成果を出せるところまで来たと考えています。ただし、ここで言うAIは全知全能の汎用型AIでなく、機能を限定した特化型AIであることは強調しておきたいですね。
−AIの普及は社会にどのような影響をもたらすと考えていますか?
最大のメリットは、人手不足の解消という面でしょう。少子高齢化の危機が叫ばれる昨今、AIを使ったサービスやロボットを導入することで、貴重な人的リソースをより付加価値の高い領域へ回せるようになれば、社会に大きなインパクトを与えるのではないかと思います。
−個人的に注目している分野はありますか?
かつて私が住友商事のメディア事業部(ジュピターテレコム)に長く在籍していたこともあり、映像分野での活用に注目しています。2018年より全国的に4K放送が始まりますが、従来の映像コンテンツを4Kに変換する際にはどうしても人手による作業が発生します。その作業をAIエンジンに任せることができれば、テレビ局などが持つ膨大な量の映像コンテンツも効率的に短期間で移行できるはずです。
−企業がAIを活用する際、最も大切なことは何だと思いますか?
現在は、AIが流行っているからウチも何かやってみようなどと、漠然と考えている企業も多いと思いますが、それではうまくいきません。AI活用を成功させるためには、まず自社の抱える課題を正しく把握する必要があります。
−自社の課題をわかっていない企業が多いのですか。
その通りです。そこでSCSKはAI分野で実績のあるコンサルティング企業のAsian Frontierと2017年10月に業務提携し、その関連会社のRidge-iとも共同で、お客様の課題を探る取り組みを進めています。
拡大するAIビジネスに対応するため、人材やノウハウを集約
−AI分野におけるSCSKグループの強みはどこにあるとお考えですか?
1つは音声認識です。SCSKは以前からAIに取り組んでおり、中でも音声認識や言語分析については長年かけて技術を蓄積してきました。たとえば、コールセンターにおけるサービス品質を高めるため、お客様とのやり取りを音声認識とAIで分析していますが、ここでの成果はAI対話型のWebエージェント「Desse(デッセ)」や、次世代型のVOC分析サービス「VoiC(ヴォイック)」として製品化されています。
もう1つの強みが画像認識・映像認識の分野で、現在はRidge-iの協力を得ながら独自の画像解析エンジンを開発しています。他にも、サインポストという企業と共同で開発したAI搭載のレジスターがありますが、これは商品棚などに配置したカメラから得られた来店客の買い物中の行動をAIで追跡し、電子マネーで決済するもので、レジ待ち時間の短縮や人手不足の解消などの効果が期待されています。
−SCSKは2017年10月にAIを活用し新たなビジネス創出を推進する「AI戦略室」を新設しました。そのねらいはなんでしょうか?
SCSKではAIや機械学習などの先端技術を活用した各業種・業態向けのソリューション開発を行っています。しかし、これまでは各部門が個別に取り組んでいたため、人材やノウハウが社内に散在していたという問題がありました。そこでこれらを一カ所に集約し、拡大するAIビジネスへ着実に対応することを目的に、AI戦略室を新設したのです。
−AI戦略室の役割にはどのようなものがありますか?
AIを活用するための人材を育成し、全社戦略およびビジネスの企画・立案を推進していくことです。さらに対外的な戦略としてAIに関する市場調査やマーケティングを実施し、必要に応じて外部企業との協業や出資を検討することも行います。
AIは「コスト」ではない。むしろ「投資」
−SCSKではどのような人材の育成を目指しているのでしょうか?
昨今の状況では外部からAIのスペシャリストを獲得するにも限界がありますし、AI戦略室が中心となって、人材を育成していく方針です。AIにまつわる人材は、研究開発や論文執筆を中心とする「AIサイエンティスト」、AIを活用した応用開発から概念検証(PoC)までを手がける「AIエンジニア」、お客様のニーズを分析して適切なソリューションを提案する「AIプランナー」の3タイプに分けることができます。SCSKでは、AIエンジニアとAIプランナーの2タイプを中心に育成していく予定です。
−ビジネスの戦略としては具体的にどのようなことを考えていますか?
まずはこれまでSCSKが製造・通信・流通・金融業などさまざまな業界で培ってきたAIの技術力をアピールしていきます。そして、音声認識・言語分析と画像認識・映像解析の両領域で、お客様に最適な提案ができるAIプランナーを育成し、ビジネスを積極的に拡大していく予定です。
また現在、親会社である住友商事もAIとIoTを駆使することで約1,000社ある事業投資会社の競争力を高めようとしていますが、それらの中にはスーパーや薬局などのBtoC企業に加え、リース会社や製造業などのBtoB企業など、さまざまな業種が含まれています。こうしたところにもSCSKのAI技術をアピールしていきます。
一般的にITは「コスト」としてとらえられていますが、AIについてはむしろ「投資」に属するものです。AIを戦略的に活用することで、新たなサービスを創出する、あるいは今までにない方法でコスト削減をするといったことが可能になります。よって、これまでSCSKは情報システムやIT企画などの部署に向けてアプローチを行っていましたが、今後は経営企画部門、生産技術部門、管理部門など、より現場に近い部署に対してもコンタクトしていくことになるでしょう。
−今後のAIへの取り組みについて教えてください。
SCSKでは、現在の中期経営計画に基づき、従来の請負型ビジネスからサービス提供型ビジネスへの転換を図っていますが、その一環としてAIを活用したいと考えています。また、さらなるグローバル展開を目指す上で、シリコンバレーのオフィスを活用し、世界の最新技術も積極的に取り入れていきます。