ファイルサーバを取り巻く環境には課題が多い
1つのファイルを複数人が異なるPCから閲覧・編集できるファイルサーバ。企業にとって「あって当たり前の存在」であるファイルサーバは、これまで単純にリプレイスされることが多かった。「クラウド化が進まない原因はファイルサーバ自体に大きな機能革新がないことにある」とSCSK株式会社 ソリューション事業グループ 西日本ITマネジメント事業本部 クラウドエンジニアリング部 副部長の安藤英登は指摘する。
企業内のデータは年々増加する一方で、容量は不足気味で維持コストもかかる、そのようなファイルサーバを運用するIT部門は、次のリプレイスまでいかに現在の容量で間に合わせるかに苦労している。
システムの運用・改修などの通常業務に加えて、DXをはじめとする経営方針を踏まえた各種プロジェクト、働き方改革や新型コロナウイルス感染拡大などの環境変化を受けてのリモートワーク対応など、さまざまなタスクを抱えながら「あって当たり前の存在」を支えているのだ。
「使っていないファイルの削除依頼をしても、誰も協力してくれません。なぜなら、たとえ使っていなくてもそのファイルが本当に不要なのか、誰も判断できないからです」(安藤)
そのため、データ容量は増加の一途を辿り、結果としてバックアップなどに多くの管理コストがかかっている。特に複数拠点がそれぞれファイルサーバを立てると、サーバの台数が増えて、管理にさらに手間がかかることになる。
企業が社内外とファイルを共有する上では、ファイルサーバの構築のほか、NAS(ストレージ)の設置、メールによるファイル添付などの方法がある。そして現在、新たなソリューションとして注目を集めているのが、クラウドストレージの導入だ。
本社と各作業現場が相互連携する必要がある建設会社の場合、設計図面などの書類を各作業所に設置したNASに保管することが多い。このようなファイルサーバとNASが共存している状態では、NASの管理に手間がかかるだけでなく、盗難にあわないように、NAS自体の物理的なセキュリティ対策も必要になる。
「年間200〜300件ほど施工する某建設関連のお客さまは、作業所ごとに設置したNASから本社のファイルサーバへ、共有ファイルをアップロードしたり、本社のファイルサーバから各作業所にあるNASへ、共有ファイルをダウンロードしたりしていました。こうした本社と各作業現場によるファイル共有はバージョン管理が必要で、NAS自体の管理とともに、不便を感じていたと聞いています」(安藤)
また、メールで添付ファイルとして送る方法についても、かつて主流だったPPAP方式(パスワード付きZIPファイルを送り、その後別メールでパスワードを送るファイル転送方式)にはセキュリティ上の課題がある。PPAPでデータをやり取りしている企業はまだ多いが、セキュリティ意識の高い企業では現在PPAPはほとんど使われていない。
ファイルサーバの運用には他にも問題がある。たとえば、テレワーク対応に向けて、自宅から社内ネットワークへアクセスできるようにするため、多くの企業がVPNとリモートデスクトップの組み合わせによるアクセス方法を採用している。だが、この方法ではセキュリティは担保される一方で、「ローカルで操作するのと比べるとレスポンスが遅い」(安藤)と利用者は不満を感じてしまう。
クラウドストレージ導入を阻むハードルと導入のメリットとは
こうした課題を解決するため、クラウドストレージを導入する企業が増えている。ただし、外部共有を目的としたクラウドストレージ導入には「高いハードルがある」と安藤は言う。多くの企業が、情報の流出を防ぐことなどを理由に、Webフィルタリングによりクラウドストレージへのアクセスをブロックしているため、自社だけではなく、共有先の企業も、従来のセキュリティポリシーを変更しなければならなくなるからだ。
「クラウドストレージを許可することで、これまでのセキュリティポリシーが崩れてしまいます。セキュリティポリシーの変更とクラウドストレージの利便性のどちらを優先するかで頭を悩ませている企業は多いですね」(安藤)
近年は、セキュリティの考え方もゼロトラストやSASEへと変化しつつある。こうした考え方を採用している企業であればクラウドストレージ導入に抵抗はないが、そうした企業はまだまだ少数派だ。
クラウドストレージ導入を阻む障壁はセキュリティだけではない。導入コストもある。単純にハードウェア、ソフトウェア、導入費用のみで比較すれば、クラウドサービスよりもファイルサーバの方が安い。そのため、コスト面で断念する企業も多いという。
「ファイルサーバはデータセンターに設置しているため、その利用料がかかり、ほかにも監視やバックアップ、災害対策などのコストもかかります。5年スパンでコスト比較するお客さまが多いのですが、もう少し長期スパンで考えると、決してクラウドストレージの方がコスト高とは言えないはずです。特にクラウドサービスの最大の特徴である「容量が無制限」「サーバの更改が不要」という利点を活かせる企業であれば、コストが逆転するケースもあるでしょう」(安藤)
さらに、ファイルサーバからクラウドストレージへの移行は、IT部門に「ファイルサーバ運用からの解放」という大きなメリットをもたらす。ITエンジニアの確保が難しい今、限りある人材をより生産性の高い業務にシフトできるわけだ。
一見、ファイルサーバはセキュリティ対策が施された社内ネットワーク内にあるため、安全であると思われがちだ。だが、社外とファイルを共有する上では、ファイルサーバよりもクラウドストレージの方が情報漏えいなどのセキュリティ対策面で優れている。
それはなぜか。悪意がある場合を除き、情報漏えいなどのインシデントが起こるのは、利用する人のミスによることが多いからだ。
「ファイルサーバしかなければ、外部との情報共有では基本的にメールを使うことになります。しかし、人手によるメール送信操作は管理できないため、人為的なミス、ひいては情報漏えいにつながりがちです」(安藤)
一方、管理されたクラウドストレージを使うことは、セキュリティ強化につながる。クラウドストレージは管理されているため、どこで、どのように情報が漏えいしたのかがわかり、情報漏えい対策を打てるからだ。そして、クラウドストレージの社員利用率が高まるほど、組織のセキュリティレベルが高まる。
クラウドストレージのツールを選択するにあたっては、相対的な判断が必要になる
一口にクラウドストレージと言っても、さまざまなツールが存在する。現在、多くの法人で使われ、代表的なツールと認知されているのが、One Drive(SharePoint)、Google Drive、Box、Dropboxの4つで、特徴はそれぞれ異なる。
このうち、One DriveやGoogle Driveは個人が一時的にデータ共有するのに優れたサービスだ。法人向けサービスとしては、Box 、Dropboxを選択する企業が多い。これら2つの法人向けツールが公開している導入企業名から、本記事の読者においては、大企業がBox 、中小企業がDropboxを採用しているというイメージを持っている方が多いのではないだろうか。
だが実際には、Dropboxのグローバル全体の年間売り上げは、Boxの2.2倍。ワールドワイドで50万社、フォーチュン500の56%の企業がDropboxを導入している。世界的に見ると、Dropboxは決して中小企業向けのサービスではないようだ。
日本市場においてDropboxに中小企業向けのイメージがある理由として、「ベンダー戦略の違いがある」と安藤は言う。Boxは当初から大企業をターゲットとしたローカル戦略を重視したのに対し、Dropboxは個人向けから企業ユースに広げるというグローバル戦略を採用してきた。
Dropboxと Boxはクラウドストレージとして優れた機能を持つサービスだが、セキュリティにつながる編集権限設定に違いがある。Boxでは、フォルダやファイルの編集権限設定が7段階であるのに対して、Dropboxでは、所有者/編集/読み取りという3段階を設定するという点だ。
こう言われると、Dropboxの編集権限設定を少なく感じるかもしれない。だが、「Dropboxは、この3段階の編集権限と他のファイル共有機能(共有リンク、ファイルリクエスト)などを組み合わせることで、Boxと同じような権限設定ができるので実質機能的な差はない」(安藤)という。
多様な働き方を支えるリモートワークが今後さらに常態化していくのは間違いない。働き方に縛られることなく業務を柔軟かつ効率的に遂行するには、オンプレミスのファイルサーバではなく、クラウドストレージへの移行が望ましいと考える企業は多いだろう。
今後、「ファイルサーバの運用に課題を感じている」「社内外でのDXを推進したい」「働き方を改革したい」と移行を検討する企業には、コラボレーション プラットフォームとして適した機能があるのかも、ぜひ確認いただきたい。
たとえばDropboxは、ドキュメントを中心に共同作業するワークプレイス「Paper」や「Dropbox Sign」のような電子署名ソリューションをはじめ、企業における生産性向上のためのワークフローを支援するコラボレーションツールを機能にもつ。
「Dropboxがファイルサーバとしての利用に適したツール」(安藤)と推す理由には、クラウドストレージの役割に留まることなく、コラボレーションの効率性と操作性の良さを重視した機能が豊富にあり、これら機能が優れた解決策につながるという点にあるからだ。
本記事では、オンプレのファイルサーバの課題、クラウドストレージサービスの特徴やその導入メリットを見てきた。次の記事では、Dropboxの場合における 「移行する際のポイント」を、SCSKの取り組みから見ていこう。