Google Cloud Platformで2025年の崖に挑む(前編)

現在、多くの企業では「2025年の崖」を克服すべく、DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むことが求められている。クラウドサービスの利用が当たり前になりつつある今、先進的な企業では自社のビジネスの特性や環境を考慮し、複数のクラウドサービスを使い分けるマルチクラウド利用も増えている。今回、SCSKではAWSとAzureに続いて、Google Cloud Platform(GCP)のソリューション提供を開始する。GCPソリューションをラインアップに加えたことで、「2025年の崖」解決に向けて何が提供できると考えたのか。サービス提供のキーパーソンに話を聞いた。
ポイント
  • 温度差があるDXへの取り組み
  • SoR領域でDX化が進まない理由
  • DXを推進する上での重要なポイント
    (前編:本記事)
  • SoR領域へのクラウド導入のリスク
  • Google Cloud Platformを活用するメリット
  • 他のサービスとの連携でDXを推進
    (後編)

温度差がある、日本企業におけるDXに対する取り組み

──SoE(System of Engagement)領域で今、DX(デジタルトランスフォーメーション)が活発化しています。どのようなDX推進の取り組みが行われているのでしょう。

白川 SoE領域では身近なところで面白い取り組み例が登場しています。例えばあるピザのチェーン店では、デリバリーするバイクにIoTセンサーを取り付け、走行データを取得するシステムを導入し、デリバリー時間の短縮や危険運転の回避などに活かしています。またある損害保険会社では、ドライブレコーダー付き自動車保険を提供。事故が起こった際、現地に調査員を派遣することなく、ドライブレコーダーの映像から事故を検知し、査定までの業務をクラウド上のAIが担っています。

カスタマーサポートの領域では、コールセンターや保守センターなど複数のユーザーチャネルを統合して、お客さまの声をAIでCX(顧客体験)分析し、どのように話せばいいか、コールオペレーターにリアルタイムにレコメンドを送ることも始まっています。

──SoE領域でDXを推進させる原動力とはどこからくるのでしょう。

白川 ITはデータを大量に集めて、それをいかに意味のあるものに加工をするのかが本質です。クラウドは集めたデータをためる場所の一つでしかありません。SoEにはエンドユーザーの声を直接受け取る部署がかかわっています。その部署が積極的だから予算がつくのだと思います。

だからこそ、私たちは今、次の3つの技術に注目しています。第一にネットワークコネクティビティ。例えば企業のSoR(System of Records)のシステムはクローズドなネットワーク環境の中にあり、インターネット経由でのアクセスはできません。そういうものをセキュアにつなぐ技術です。

第二に仮想データレイクにつながる技術。異なる環境にあるデータをバーチャルに統合しているように見せる技術です。これにより、データの利活用が進みます。第三に学習済みAPIと、RDB(リレーショナルデータベース)やDWH(データウェアハウス)およびBI(ビジネスインテリジェンス)との連携です。

実はこうした技術を提供しているのが、Google Cloud Platform (GCP)なのです。

──SoE領域ではどのような考えでDX推進に取り組むと成功しやすいと考えていますか。

岸岡 一番のポイントはエンドユーザーに「こうしたい」という業務ニーズがあることです。テクノロジーやルールから入ると、どうしても現行業務やシステム、ルールの枠にとらわれてしまい、うまくいかないケースが多いようです。やはりスモールスタートでDXを使い始め、本稼働する段階でIT部門と連携する。最初に業務部門がトライ&エラーでDXの効果を実感し、それからセキュリティや性能、レガシーシステムとのデータ連携などの非機能要件に目を向けていくと良いと思います。

SCSK ITマネジメント事業部門 基盤サービス事業本部
サービス開発推進部長 白川 正人

SoR領域でDX化が進まない理由

──一方でSoR領域ではDXがあまり進んでいません。

白川 そもそもSoR領域は業務が変わらないことが多いのです。例えば管理会計や人事制度は半年ごとに変わったりはしません。だからインフラ基盤の更改の動機が少なくなります。明確なニーズがあるとすれば、コスト削減です。枯れて手慣れて、しかもそれなりに効率化されている業務を無理矢理DX化しようと旗を振っても、期待効果が明確でない以上、意味がありません。

一方で、サーバーなどのインフラ機器は5年で保守切れになります。どこかのタイミングでマネージドに近いクラウド環境に移行すれば、保守サイクルから解放され、保守や運用の負荷も低減できます。そこで弊社ではパブリッククラウドが隆盛する前から、「変化の少ない業務」のインフラ問題を解決できるソリューションとして、USiZE(ユーサイズ)シリーズを提供してきました。

とはいえ、SoI(System of Insight)やSoEでCXを改善しようとしたときには、SoRが保有する顧客マスターをはじめとするマスターデータとの連携が必要になります。その際に連携しやすい場所、つまりSoR領域ではクラウドにシステムがあるというのは非常に有利になります。顧客のビジネス全体に対して、アジリティや機能性の向上の恩恵を受けることができるため、顧客ビジネス全体の競争力強化につながると思います。

──SoR領域におけるDX推進によって生じるメリットについて教えてください。どのようなインパクトが得られるのでしょう。

白川 いわゆる「2025年の崖」対応です。レガシー技術を社内で抱え、使い続けることにより、予算や人材をSoEやSoI領域にシフトできないという課題があります。この課題の解決策は、インフラをクラウド技術でオートメーション化されたフルマネージド基盤に、パッケージ周辺のアプリケーションをローコード開発に移行することです。こうすることで運用負荷は劇的に下がります。ITが直接お金を生み出す時代に対応するには、バックエンド系のSoRシステムのDX対応は必須でしょう。

──新型コロナウイルスの感染防止対策の一環として、リモートワークを導入する企業が増えましたが、リモートワークだけでは業務は完結しないという話も聞こえてきます。

白川 リモートワークの最大の課題は、ITではなく経営者や組織長の意識です。印鑑と紙のデリバリーをなくすことができれば、あとはワークフロー製品やコラボレーション製品などで解決できると思います。基幹系に外部からアクセスすることについて不安を持つ人もいますが、VDI(仮想デスクトップ基盤)などのソリューションを使えば問題ありません。ただ、どこまでそれらのソリューションにお金を掛けるか。何が重要で何を守るのか。それは経営者の判断になると思います。

SCSK ITマネジメント事業部門 基盤サービス事業本部 サービス開発推進部
サービス開発課 課長代理 岸岡 学

SoR領域におけるDXを推進する上で重要なポイントとは

──レガシーシステムを活かすには、どういう視点が必要になるのでしょう。

白川 重要になるのは業務が変わるか変わらないかです。業務が変わらないのであれば、単純なリフト(既存の設計のままクラウドへ移行)でよいかもしれませんし、改善が必要ならリフト&シフト(クラウドならではの技術的な特長を活かしてクラウドへ移行)が必要になります。

岸岡 いずれにしてもDX業務とつなぐためにも、クラウドへの移行は進めるべきです。ですが、DX業務とのつなぎはそう容易なことではありません。DX推進の部署と基幹系を見ている情報システム部門が分かれており、互いの状況をわかっていないことが多いからです。これは憂慮すべき問題です。基幹系システムとDX業務をつなげるには、DX推進部署の人たちが先行して何らかの成功体験をつくる。そうして情報システム部門に「一緒にやりましょう」と声を掛ける進め方がいいと思います。

SoE/DX系事業で新しい取り組みを行い、それをしっかり知識・ノウハウとして落とし込み、事業に取り込んでいくことがSoR領域でのDX促進には不可欠です。

白川 成功したモノを見れば、情報システム部門の人たちも「これは使える」となりますね。

──そのほかにも、クラウドサービスを使った方が有利なこともたくさんあります。

白川 クラウドサービスを活用するメリットはAIやIoTなどの最新サービスをすぐ取り入れられることです。またセキュリティ的にも安全が確保されます。よくクラウドは不安だと言われます。ですが、よく考えてみてください。1億円を自宅のタンスに入れておくのと銀行に預けるのとどちらが安全でしょう。銀行ですよね。クラウドを利用するのは言わば銀行に預けるようなものです。あとよく言われているように、スモールスタートで始められ、拡大することも容易。不要になればやめることも簡単で、資産として残らない点も大きなメリットです。

後編では、SoR領域へのクラウド導入におけるリスクやGoogle Cloud Platformのソリューションについてさらに深く聞いていきます。
後編に続く